本隊は、ベースキャンプを離れ、シミコットへむけてキャラバンを再開しています。

7月10日に滞在していた温泉のあるケルミ村を経て、明日にはシミコットへ到着できるかと思います。

アタック詳細記です。

ここまでどれだけの障壁を越えてきただろう。灼熱のネパールガンジーでのフライト待ち。天候が回復しやっと飛ぶと思ったらタイミング悪く大規模なストライキが起こり、wait、wait、wait・・・。急遽ヘリコプターで飛び、長いキャラバンの末に辿りついた目的の山タプクヒマールの麓ハルジ村。まさかの地元住民の反対に遭い、なんと山を見ることなく断念。その後極西北ネパールを歩き歩き、自分達の足と目と汗で山を探した。やっといい谷を見つけたと思ったら、再度の地元住民の反対・・・。今度はなんとかこの問題を解決して、ついに僕達は無名の未踏峰を探し出した。後は登るだけだ。しかし、その山は落石がひどく断念。そして最後の最後に今日僕たちがアタックする山と出会うことができた。ここまで来れたのは、何と言ってもとにかく最後まで本多隊長が希望を捨てずあきらめなかったからに他ならない。隊長が前に進む事だけを考えてきたから僕たちもついてこられた。本当にここまでが辛く長い道のりだった。だけど、今日僕達は念願の未踏峰にアタックできる。間違いなく僕達は幸せ者だ。
午前三時。時計のアラームの音で目を覚ます。順応は十分のはずだが、やはり気持ちが高ぶってあまりよく眠れなかった。寝袋をしまい、EPIストーブに火をつけ、お茶を沸かし、それで喉を潤す。起きてからのこの一連の動作をいったい今まで何度繰り返してきただろう。一種の「儀式」みたいなものだ。同じテントにいる本多隊長の体調も良いようだ。ネパールに来てから一ヶ月ちょっと。本多隊長はただの一回も少しも体調を崩す事なくここまできた。僕もたくさんの人たちと山に登ってきたが、これほどまでに徹底して自己管理ができる人はそうはいない。意志の強さがそれを可能にしているのだろうと、近くにいてひしひしと感じる気迫がそう教えてくれる。
アルファー米のおかゆと味噌汁という簡単な朝食を済ませ、靴を履き、ハーネスを装着し、ヘッドランプをつけ、テントの外に出る。天気はガスがまだ残っているが、星もちらちらガスの隙間から見えるのでそのうち晴れてくるだろう。本多隊長も「よし!この天気なら行けるな!」と更に気合を入れなおしている。他のメンバーも体調は万全のようだ。彩乃ちゃんはヒマラヤ初挑戦。初アタックだ。
午前四時半。暗闇の中おのおののライトの灯を頼りに出発。HAPのラムさんとアンタレさんにまず先行してもらい、昨日安全確保の為にルート上に張ったロープの支点のチェックと、トレース付けを頼んだ。その後僕が続き、すぐ後ろに本多隊長とサーダー。登山の経験の少ない彩乃ちゃんをタケさんとHAPのカイラさんが挟むようにして歩き出す。マサルは写真撮影の為、この隊列の中を自由に動いてもらうことにする。
まずは30度ぐらいの雪の斜面を左上していく。本多隊長は闇の中、足元を一歩一歩確かめながら慎重に登っていく。やはり調子がいいのだろう。足取りはしっかりしている。
40分ぐらい登り、岩のガレ場のトラバースとなる。昨日ここから頂上稜線まで50mロープを10本Fixした。各自しっかりロープに自己確保をとり、岩の上にアイゼンという相性の悪い足場をこなしていく。ガスはまだ残っているが、段々と明るくなってきた。
ロープ2本分進み、また雪の上に戻る。ここからロープ4本分今度は30度ぐらいの雪面をトラバース気味に少しずつ高度を上げていく。
後ろを振り返ると、みんな適度な緊張感を持ちながらも、この未踏の斜面を楽しんでいるように見える。本多隊長は決して速いペースではないが、止まることなく確実な一歩を踏み出して、登ってくる。この天気、このメンバーの調子なら問題ない。しかし油断は禁物だ。
順調な時こそ気をつけなければならない。山は心の隙を突いてくる。大切なのは謙虚さであるという事をこの15年間の山生活で嫌というほど思い知らされてきた。謙虚な気持ちを忘れたら自然は本当の美しさを見せてくれない、普遍的な真実を見せてくれない。ただそこに残酷な姿を晒してくるだけだ。自分の存在の小ささを謙虚に受け止める強さを心に持たなければならない。
そして、最後の核心部である斜度40度~45度の雪壁にきた。ここはアッセンダー(ロープにかけ自己確保する特殊な道具)をセットし、ロープにテンションをある程度かけながら希薄な酸素の中で体を持ち上げていく。今いる高度は5550m。海抜0mの約半分の酸素量だ。焦っても酸素は入ってこない。集中して肺の中のものをできるだけ多く腹式で外に出す。そして集中して吸い込む。これを永遠繰り返していく。とても単調な行為だが、この事だけが、今の自分を支えてくれる。
タケさんを見ると、この雪を滑る事ができるのかどうか、雪質を確かめながら登ってきているようだ。彩乃ちゃんは初めての経験に少し戸惑いながらも力強くスキーを担いで高みを目指している。
雪壁を1P、2P、3P、じりじりと登っていく。本多隊長もさすがにこの急傾斜の登りは辛いようだ。しかし怯むことなく、闘志をむき出しにしている。このパワーはどこから出てくるのか。
そしてついに頂上稜線に達する。天気も回復してきて、青空が見えてきた。あと少しだ、僕たちの夢の果てまで。
最後は真の頂上まで、細い雪の稜線が続いている。
僕が先頭になり、慎重にロープを張っていく。ついにここまで来たんだ。ついに。名もなき未踏峰の頂上は岩が露出していた。
本多隊長が何かをかみ締めるように、最後の数歩を歩く。隊長にとって長い長い道のりであったはずだ。
僕がこの登山に誘われた時、「人生とは自分にとっての宝物を探す旅ではないでしょうか。」そう本多隊長は言った。そしてその宝物を見つける為に、この一年、いやもっともっと長い時間をこの時の為に費やしてきた。そして僕たちもその思いについてこさせてもらった。
頂上に立った時の本多隊長の笑顔を僕はおそらく一生忘れないだろう。人はこんな表情を持つ為に生まれてきたのではないだろうか。ついにやったのだ。僕たちはネパール時間午前7時59分、未踏峰(5750m)の登頂に成功した。
タケさんも満面の笑みで立つ。この人の自然を愛する気持ちは本物だ。彩乃ちゃんは初めてのヒマラヤでいきなり未踏峰に立ってしまった。辛かっただろうと思う。苦しかっただろうと思う。それでも弱音を吐くことは決してなかった。泣き言を言うことは決してなかった。頂上で涙する彼女に本多隊長が「よく頑張ったね。夢を持ってあきらめず一歩一歩進んでいけば、何でもできるんだよ」と優しく声をかけていたのが印象的だった。マサルが皆の表情を写真に撮る。この若い可能性に溢れたフォトグラファーとの出会いは僕にとってはかなり刺激的なものであった。ネパール人4名も少しおどけて頂上に。
「この世に仲間ほど素晴らしいものが他にあるとは到底思えない」と言ったのはエンデュアランス号を率いた極地探検家アーネスト・シャクルトンだ。
登山という行為に功績があるとすれば、それは人間同士を深く結び合わせる事ではないだろうか。
共有した多くの困難な時間、共有した多くの感動、信頼。共に見上げた無数の星々。これらは決して金銭で買うことができない。
この共有感に優る宝物は他にはないのではないか。そう思ってしまいたくなるようなものが登山という行為にはある。
頂上から皆で周りを見渡す。ヒマラヤが形成されて以来、この点に立った人類はいなかったはずだ。だとするとこの風景は僕たちが始めて目にするものだ。自然が自分達のものになると考えるのは人間の傲慢かもしれないが、せめて今だけはこの山も風景も自分たちだけのものとして眺めていたい。応援して下さった皆様への感謝の気持ちと共にそんな気持ちにとらわれた。
よく「頂上に立った瞬間の気持ちは?」と聞かれる。正直それは「立った者にしか分からない」としか答えようがない。
「今後何が起ころうとも、この瞬間に生きているだけでたくさんだ!」と、世界初の大西洋横断に成功したリンドバーグは叫んだと言う。
この偉大な先駆者、冒険者と同じ気持ちだと言うのは余りにもおこがましいが、登山にもこれに近い感情はある。
頂上に立つまでには長い時間を要するが、頂上にいる時間は短い。しかしその短い時間の中に、それまでの全てが、大げさに言えば人生の全ての喜びや幸せが、とてつもなく凝縮された形で、自分に迫ってくる瞬間がある。そんな瞬間を、稀にしかないそんな瞬間を生きていたいと思っていることは確かだ。
一通り記念撮影を終えた後、僕達は頂上にケルンをつくり、その下にそれぞれのメッセージ、写真を入れたBOXを埋めさせてもらった。
頂上を去る瞬間は、いつだって名残惜しく感じる。しかし僕達は還るべき場所に還る義務がある。
下山に際して、スキーヤーの児玉、鈴木隊員は当初の予定通り、頂上稜線からのスキー滑降を成功させた。(タケさんのスキー滑走レポート参照)
スキー素人の僕には、全く理解を超えた出来事であった。
陽があたり雪が腐り始め、下りはかなり歩きづらかったが、全員無事にC2帰着。その後このキャンプ地を撤収し、C1まで下降。
本多隊長は疲労はしていましたが、最後まで気持ちを切らさず、この日を歩き通した。
テントに倒れこみ、コーヒーを沸かして飲む。
本多隊長は言った。「大切なのはいつだって志だ」「どう生きたか、ではなくて、どう生きるか、なんだよ」
志を持って、坦々と懸命に日々を重ねる事の大切さを、本多隊長に教えて頂いた。
この登山に参加させてもらってよかった。そう思った。
 
 
By 加藤
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今日のチームホンダのキャンプ地

投稿者 tatsuno 日付: 2008年08月10日 12:24 pm |

3 Responses

  1. HIROKO,YURIA,MASAO,RYU Says:

    まずは、無事下山とのこと、安心いたしました。

    アタック詳細を拝読し、改めて大変なご苦労を乗り越えての登頂成功だったのだ…と感動を覚えました。

    山頂での父の笑顔を見て、家族全員、本当に良かった、と喜んでおります。

    この登頂の成功は、隊員の皆様のサポートがあってこそにほかなりません。
    改めて御礼を申し上げます。

  2. Mamoru,h Says:

    登頂から下山までお疲れ様でした。本多隊長、また次も期待していますのでよろしくお願いします。

  3. マリコ Says:

    本当に素晴らしい!!!
    本多隊長・皆さん、お疲れさまでした。また、新しいチャレンジにも期待しています!

コメント

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